桜(14年4月)

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大阪城公園の桜」
Photo: kunisuke nisizima

 

重いコートを脱いで軽やかに春風を受けて歩く頃、
冬の間固いまま閉じていた桜の蕾はほころび始める。
3分咲きから5分咲きへと次第に咲き進み、
霞がたなびくような薄紅色の桜はなだらかな山や河川を彩り、
たった1週間か10日咲いて散り始める。
薄い花びらのひとひらひとひらが散り行くさまは儚く、
季節の移ろいとともに時の流れを思い出させてくれる。

我が家にも、10数年前まで1本の桜の木があった。
3メートル程の若木は、毎年春になると枝ごとに
小さな花をつけ若木ながらしだれ桜の風情であった。
塀の側にはレンギョウ、山吹、ユキヤナギが優しい色を添えていた。

ところが、子供が犬とウサギとニワトリを飼うに至って
庭は次第に荒れ始め見るかげもなくなっていった。
スーパの卵から孵したニワトリは芝と草花をついばみ、
子犬は土を蹴散らし、特にウサギは空中で方向転換をする程の勢いで
庭を縦横に駆け回り地中深くに穴を掘った。
金網を張って防いでも役に立たず、
樫の木や桜の木の幹がかじられて枯れていった。
大事にしていれば25年の大木になっていたはずなのだが。

この庭で戯れていた 子供たちはいつの間にか大きくなって独立し、
それぞれの暮らしを始めている。
動物達は仲良く庭の片隅に眠っている。

今年も桜の季節が巡ってきた。私の住む夙川の地では、
毎年3月末から4月初めにかけて川の南北2、8キロに渡る
夙川遊歩道沿いに主にソメイヨシノが開花する。
河川を覆うように映る満開の桜の上流には甲山が望まれ、
この季節は市外から訪れた人たちで大変な賑わいになる。
甲山の麓北山貯水池まで登ると人出が少なく、
鳥のさえずりを聴きながら山桜やしだれ桜を静かに観賞することが出来る。

 

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樹齢300年の又兵衛桜

 

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樹齢300年の大野寺のしだれ桜
Photo: Junko Kato

 

近年訪ねた桜の名所は樹齢300年の奈良県宇陀の又兵衛桜や大野寺のしだれ桜。
花の命は短いが木の命はなんと長いのだろう。
悠々と花を咲かせる古木は長い時代を生きてなお健在だった。
琵琶湖畔の海津大崎の桜は遠くまで見渡せる湖に映えて穏やかな風景だった。
吉野や桜川の山桜はさまざまな種類があり珊瑚のような
複雑な色が重なり合うと言う。
さて今年は冬ごもりから抜け出してどこへ出かけようか。

 

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ミモザ(14年3月)

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風はまだ冷たいながら、ようやく明るくなってきた日差しを浴びて
ロウ梅、黄梅、レンギョウサンシュユが、
春を先取りするようにそっと咲き始めた。
早春の花木はなぜか黄色が多い。
その中で、ミモザの黄色い存在感は圧巻だ。

私の家から駅へ通じる道の途中にある1本のミモザの木は、
毎年3月になるとふわふわとした羽状の花が
屋根より大きい大木を覆い尽くし、遠くからでも目につく明るい黄色の固まりは、
少し緩み始めた寒気の中で一気に春の到来を感じさせてくれる。

大木になって私たちが良く目にするのはギンヨウアカシア。
通称フランス語でミモザと呼ばれ、ミモザサラダの由来ともなっている。
ギザギザの切れ込みの多い葉っぱは銀灰色で、花の色とのコントラストが見事だ。
小さな丸い固まりは無数の花で出来ていて、
それが集まった何千何万の花が羽状の房となっている。
花はそれぞれに目的があって色と形が出来ているというが、
いつも人知の及ばない造形の美しさに目を奪われる。

ミモザの故郷南フランスでは、
ポルム・レ・ミモザ村からグラースへ通じる130kmの
ミモザ街道」が黄金色に染まり、
小さな街ではミモザ祭りが開かれるという。
コートダジュール地方のマンドリューと
ラ・ナプルではミモザの花で飾られた山車の上に乗った
ミス・ミモザや入賞者たちが、花を投げ合うパレードで賑わうそうだ。
地中海の紺碧の空や海に生える黄色いミモザは、
日本の桜のようにその国の風景と心情にとけ込み
春を告げる花として人々に愛されているのだろう。

私は毎年近くにあるミモザの木を見て、
自宅でも植えてみたいと思いながらもう何年も経ってしまった。
玄関前のシンボルツリーはヤマボウシ
南側の小さな庭にはもう植えるスペースがない。
せめて鉢植えにでもして、
あの丸い黄色い固まりと銀灰色の葉を近くで眺めてみよう。

 

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