玉すだれ〈ゼフィランサス〉(15年9月)

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玉すだれの花
「季節の花 300」より

 

玉すだれに出会ったのは小学生の中頃だった。
先の尖った細い緑色の葉がすだれのように集まった中央に、
5個10個あるいは20個程もまとまって
真っ白な切れ込みの多いラッパ形の花が
上を向いて咲くこの花は、白さが際立って目についた。
球根で増えて、丈夫で育てやすいのになぜか園芸店ではあまり見かけない。
道ばたでこの花を見るたびにふと懐かしく思うのは、
子供の頃に出会った思い出があるからだろう。

私の育った長崎の街は、
斎藤茂吉
「朝あけて、船より鳴れる、ふと笛の、こだまは長し、なみよろう山」と
詠ったように、電車やバスが通る
わずかの平地を残しては両側に山が迫っていた。
友達の家に遊びに行くのにも、
坂を登って下りてまた登って訪ねるという具合だった。
子供の足で30分も登るといくつかの丘の頂上に出ることができて、
よく画板を抱えて絵を描きに行ったものだった。

その中の一つに「城の越」という丘がある。
シーボルトの遺跡のある鳴滝町の住宅街を登りきったところで小道を抜けると、
視界が開けて三菱造船所のドックで製作中の大型船や
外国船が停泊している長崎港を見下ろすことができた。
畳2枚程もある一枚岩が連なるこの場所は、何かの遺跡でもあったのだろうか?
石に座って眺めるにも絵を描くにも格好の場所だった。

そこへ抜ける小道沿いに「玉すだれ」の花はあった。
多分この花の咲く季節9月頃だったと思う。
雑草が咲くような道の端に、
明るく白い花が固まって数カ所に咲いているのである。
私はその花を折り取って、花好きの母を喜ばそうと持ち帰ったことがあった。
当時大家族であった我が家は、
子供5人の他に祖父や親戚の人が一緒に住んでいて
母は忙しかったに違いないのだが、
仕事の手を止めてその花の白い美しさを大変愛でてくれた。
花は一層輝きを増し、持ち帰った私の心は満足だった。

その後あまり気に留めないまま園芸にいそしんでいたが、
今年は庭の隅が明るくなるように玉すだれを植えてみようと思っている。

 

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